mitolab's diary

東南アジアで頑張って生きてる人のブログ

ベトナムの片田舎で約1年間、未経験から農業をしてみての振り返り

今後ベトナムで何かしら農業関連事業を始めようと考えてる方の参考になればと思い、1年間の農業修行の振り返りを書いてみます。

Tl;Dr

事業開始前に、事業内容にフィットする現地パートナーを見つけましょう。

※ 時間が有る方は下も読んでみて下さい。

最初の2,3ヶ月

mitolab.hatenablog.com

こんな感じで駆け抜けました。

ベトナムの片田舎で何をしていたのか?

ハノイから60km南に下ったハナム省というところで、約1年間のとある農業プロジェクトに参画しておりました。

そこで、現地でビジネス化するためのフィージビリティ・スタディみたいなていで、日本の栽培技術で作った野菜とベトナムの一般的な技術で作った野菜の比較栽培を行い、収量、見た目、栄養価などにどのくらい差異が出るかという試験栽培を、1000㎡ほどの小さな面積で行っていました。

なぜに農業、なぜベトナム

なぜ農業かと言えば、元々自然に触れるのが好きだったことと、効率化が進んでいない分野であったこと、自分のスキルセットが活かせるのではと思ったことが大きいです*1。より具体的には、ITx農業のサービスを志しているのですが、それをするにしても使えないものが多いことを知っていたので、じゃあ現場に入ってみたらいいのでは?っていう精神から。

なぜベトナムかというと、農業に関して言えば、ベトナムの立地が良いこと、農業の高度化に力を入れていることが大きいです。それ以外だと、経済成長率も高く、生産年齢人口も多く、今後の成長が見込めること、生活コストが低いこと、あとは食べ物や文化が近いことなども魅力の1つです。

ハナム省について

住んでいるハナム省は、首都ハノイに隣接しており、全人口は約80万人、そのうち農業人口が約60%を占めます。面積は新潟の佐渡島くらいの大きさで、田園風景が広がるベトナム北部ではよくある省のうちの1つだと思います。工業団地もいくつか点在しているので、工業もある程度盛んかと思います。大きなトラックもよく見かけます。

その中心であるフーリー市の雰囲気はというと、特段大きな観光地があるわけでもなく、小さな商店はやたら多い一般的なベトナムの田舎街...という感じかと思います。最近ロッテリアや全国チェーンのホテルやホテルに付属するやや大きめのスーパーができたくらいです。雰囲気はこの動画を参照。

www.youtube.com

ただ農業の分野においては、ハナム省は、以前から同省内の"ハイテク農業用地"へ入居する企業を積極的に誘致しています。

vietnam.vnanet.vn

このように国の首相が直接省に出向いてアピールをしたり、

ハイテク農業向け融資資金の総額を60兆VND(約3020億円)から100兆VND(約5030億円)に引き上げ

via フック首相がハイテク農業発展策表明、融資資金100兆VNDに [経済] - VIETJOベトナムニュース

を行うなどして、農業のハイテク化を推し進めています*2

また外資企業に対しては、ジャパンデスクなる日本語が話せるスタッフが常駐し、日系企業との窓口となっていることも特徴の1つです。我々もそのスタッフにお世話になりました。

プロジェクトの結果はどうだったのか

プロジェクトの性質上あまり情報開示できないので詳しいことは書けなくて申し訳ないのですが、結果としては、日本で手に入る野菜と同等のクオリティとまではいきませんが、ベトナムのそれと比べると良いものができました。写真などは以下ブログエントリーをみてもらるとわかるかと思います。

vietagri.asia

振り返ってみて思うこと

野菜栽培について

やっぱり日本は恵まれている。ということに尽きるなと。何をするにしても資材の充実度や質が違います。素材が違えば、出来るものも当然違ってきます。結局いい野菜を作るにはいい素材から、ということを改めて痛感しました。

特に我々が行った無農薬・土耕で栽培するのであれば、

  • 良質な堆肥、窒素系肥料、ミネラル、微生物系資材
  • 野菜に合わせた土質改善
  • グリーンハウスやネット、耕運機、農具系資材の充実

これらはかなり重要です。どの辺が妥協点かは、どういうミッション・ビジネスモデルかによると思いますが、正直、この辺を整えずに生産に挑むと、流通・販売の面でしわよせがくる可能性が高いと思います。

自社で情報もつてもゼロからそれらを調達するのは難しいので、これが1番言いたいことだったりするんですが、信頼のおける現地パートナーを探すのがまず先かもしれません。

生産チーム作りに関して

今回の経験をふまえて、こういう構成なら良かったな、というのが以下です。いかんせん今回は圃場面積が小さかった(1000㎡)ので実際の人数は変わると思いますが、構成は再利用可能かなと思います。

  1. 日本人マネージャ: 1名
  2. ベトナム人マネージャ(日本語 or 英語OKな人): 1名
  3. ワーカー: 適宜 (現地の手練な中高年の方々や高齢者の方々)

基本は、2の人がワーカーさんへの指示出しとケア、圃場の管理を行い、1の人が適宜2とコミュニケーションを取って進める形がいいのかなと思いました。普通かもですが。できれば2の人は農大卒で技術修得や向上心に溢れた方で且つ女性の方が良い気がします。差別するわけじゃないんですが女性の方が気遣いが出来る方多いのと、ワーカーさんは女性が多くコミュニケーション取りやすいだろうということが理由です。また、後々生産を拡大することや、人材の豊富さを考えると、1と2は英語でコミュニケーションが出来た方が良いと思います。

インフラについて

土地選びはぬかりなく

何回か冠水したんですが、1番ひどかったのは2017年10月中旬、ベトナム中北部で死人が出てしまうほどの記録的な豪雨により、我々の圃場含む地域一帯が半月ほど冠水しました。どのくらいの冠水かというと、畑で釣りや漁をする人が出るくらいには冠水しました。畑で魚を捕る意味がわからないです...。

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幸い、試験栽培期間が終了してからの出来事だったので、大事には至りませんでしたが、自主的に行っていた試験栽培の苗はすべてダメになりましたし、倉庫の肥料や資材なども大量に水に浸かり利用不能に。地面はヘドロがたまり、モノが散乱し、すさまじい状況でした。

我々は予め土地を選べる状態になかったので致し方なかったですが、事業として農業生産を始められるならば、当然ながらきちんと土地の高低データを把握してから決めましょう。そこ大事です。

安定供給可能な水源の確保

仮に水路があっても、水質検査は確実に、安全性を顧客に担保するならば、定期的にしたほうがいいでしょう。且つ、安定的に供給されるかも大事です。大きな水源から引かれているか、水門はどこが管理しているかなど、しっかり確認をとりましょう。我々もだいぶ苦労しました。

参考:

http://www.water.go.jp/kanto/sougicenter/guide/images/int01-4-001.JPG

via 水資源機構の国際業務の紹介 | 総合技術センター案内 | 独立行政法人 水資源機構総合技術センター

電気・インターネット

我々の場合は、一部センサーでデータ取りをしていたこともあり、圃場にネットを配備していました。たまに家のネットが弱い時なんかは圃場にskypeしにくる、くらいには安定していました。が、電気自体は安定しない...一度近隣で大木の枝を伐採していて、その枝が電線に触れて電気が止まるとかありました。予告なしの停電もあり、微生物培養中にそれがあって、微生物が活性化せずスケジュール遅れるとかもありました。

農業ビジネスをする上でポイントと思われる点

販売方法

ベトナムでは、野菜の値段が安い*3ので、現地の品種で現地の資材で作る分には規模の経済かと思います。ではなく生産物+αで勝負するなら、面積はある程度小さく維持して、品種も資材も厳選してブランドものとして富裕層やホテルにUXを超良くして売るというのは試せるかなと思いました、体験とセットで売ることも考えられますし。でないとただでさえ日系企業や既存のベトナム企業が生産事業をする中で差別化が難しそう...。生産物以外で勝負する選択肢、加工であったり飲食などもあると思うのですが、それはそれで幅が広いので今回はパスです。

資材

あと生産する上で1番困ったのが、資材が圧倒的に足りないよねってことだったのですが、じゃあ資材を自分らで輸入しよう!という風には考えられなかったです。すんごい激安で日本から仕入れられるとか、日本品質の廉価品を大量生産してくれる業者がいてくれればいんでしょうが、価格が高いと現地の農家相手にしても、採算がどうしてもあわないだろうなとか考えるとうーんという感じです。逆に、ベトナムで手に入る資材のデータベース、業者一覧、みたいなのはあったら凄い便利ですね!JETROさんとかが作ってそう。

天気

あと天気。ベトナム北部は本当に天気が悪い!曇りか雨がほとんどで、特に2017年なんかは、夏と感じた日が体感1ヶ月にも満たなかったです。そんな中普通に野菜を作ろうと思っても、結構厳しいものがあります。土地を選ぶという意味では、ベトナムの有名な農業地帯である、ダラット周辺が断然いいと思います(当然いい土地には外資が集中していますが)。土地を選ばないのであれば、品質劣化を覚悟するか、VinEcoがやっているような完全制御の水耕栽培ハウスなどが適しているように思います。初期投資は半端ないですが。もし独自技術や廉価バージョンで価格を抑えられるのであれば、可能性はあると思います。

人については、これも生産現場しか見てないのであれですが、圃場に農薬の袋をそのまま捨てる、使い終わった資材は洗わず放置する、ゴミを用水路そばにすてる、カマやハサミといった危ないものも畑に放置してるにもかかわらず裸足で歩いてたりとか、日本の常識には当てはまらない事が多いので、まずは日本のクオリティを望むならその辺の改善からという風に思いました。また生産者は高齢な方が多く、技術的な知識も昔ながらのやり方で、人によっては頑固でこっちのやり方に合わせてくれない人もいたりします。ただ、クワを扱う技術や、竹や地元で手に入るもので農具を自作したりなど、その辺の技術は凄くて、充分な資材の手に入らない状況下ではだいぶ助かりました。実家のおじいちゃんを思い出しました。

流通・販売

流通・販売までしていないのでそれらの裏側的なことは分からないですが、スーパーで売られているものを見る限りは、基本しなびたものや、傷ついたものが多いです。逆に市場は新鮮なモノが多いですが、イメージとして安全性はスーパーより劣るっていう感じです。ヒアリングによると、世代によってどこで買うか違うらしく、若い世代はスーパーで買うことが多く、年配の方は市場で買う人が多いみたいです。

輸送に関しても、VinグループのブランドVinEcoなんかは、自社で冷蔵トラックを契約して自社スーパーまで運んでいるので、品質は良いですが、そうしている所はまだ少ないと思います。あと、ラストワンマイルのバイク便輸送などはかなり雑なものを見かけることが多いので、きちんと作って最後の顧客に届けるまで品質を維持できると、それだけで単価あげられるのではないかと。

ITもしくはIoTで何か改善できる点はあったか?

今回は生産現場にいることが多かったのですが、ぶっちゃけそれ以前の問題すぎてITとかIoTの出番なしというのが本音です。デバイスが悪いとかソフトが悪いとかいうのではなく、まずは普通に良い物が作れて、マネジメントができて、コストに見合うビジネスモデルがあって初めて話題に挙がるものなので。

まとめ

いざ振り返ってみると、現地を良く知る、且つやろうとしているプロジェクトに関して経験の豊富なパートナーと一緒に進めていたらスムーズに行っていただろうなと思います。巨人の肩にのるじゃないですけど、過去に踏んだ轍をまた別の誰かが踏むのは非効率すぎます。ただでさえ共産国における外資は分が悪いので、プロジェクトを始める前にまずはパートナー探しから!

今後について

色々と大変ではありましたが、チームミトミネとしては次のステップとして以下2つを実施中です:

  1. ベトナム農業メディア
  2. 通訳アプリで食えるようになる

1に関しては、単純に情報を知っていれば回避できた問題や改善できた事(それこそ資材リストを作るとか)は色々あるなぁと思い、そういう損失をなくして行きたいというのと、農家さんへのインタビューや訪問なども考えているので、そこで横のつながりを作れれば面白い連携もできるんじゃないかなとも考えていたりします。

2に関しては、我々が1年間滞在してみて実際に感じた課題から作ってみたものです。自動翻訳なデバイスも結構出てきてるご時世ですが、今時点ではまだ人力に優位性があると思うので、時代に合わせつつハイブリッドな形を目指してみたいなと模索中です。また農業で使える仕組みにもできるかなと考えていたりします。

以上、引き続きがんばっていきます!

*1:いわゆるIKIGAI

*2:ハイテクの定義はグレー

*3:コマツナならネットで買っても150~200円/kg程度、市場はその半分くらい。トマトは安い時で市場で10円/kgとかです...。

ベトナムで農業を初めて約2ヶ月たっての近況と課題感

10月後半から昨日までおよそ2ヶ月にわたる農場整備がようやく終わった...。荒れ地の草刈りから始めて耕耘、土壌分析、客土、施肥、土中発酵、潅水配管設置、小屋建てx2、各種資材調達、育苗、各種データ取り、関連各所との渉外、播種/定植、etc...本当に大変だった。言葉通じない且つ使える資材も限られる、且つ農業1年生ということで、かなりシビアな状況の中、農家の先輩たちからの指導や、行動力のあるリーダーのおかげでなんとかこなせてよかったとホッと一安心。

でも撒いた種が発芽するまで、定植した苗が順調に育つのを見るまでは油断できない。てかこれからも色々な病気や虫、雑草、天候色々な敵が待ち構えているのでそもそも油断はできないんだけど...。とりあえず振り返ってつらつらと書いてみる。

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新設の小屋(倉庫, 作物調整場, 堆肥場を兼ねる) f:id:mitolab:20161220015606j:plain

新設の堆肥場(エアレーション装置はまた別途作製予定) f:id:mitolab:20161220015609j:plain

堆肥に使う廃菌床 f:id:mitolab:20161220015612j:plain

新設のポンプ小屋と水質浄化タンク f:id:mitolab:20161220015615j:plain

先輩に苦労して作ってもらった配管 f:id:mitolab:20161220015618j:plain

この2ヶ月、日本が如何に恵まれているかを思い知ったなぁと。ほしい肥料も資材も機械も電話一本、メール一本、ボタン1つで手に入るし、ちょっと車を走らせれば大型ショッピングセンターで必要なものは大抵手に入る。しかもどの道具も洗練されてる。

ベトナム社会主義国なためかわからないけど、見事に業種が分けられていて、大型DIYショップみたいなのが無い。ホーチミンはまだいいと思うけど、北部はまだまだ...。特に私が今いるハナム省は、首都であり北部の中心都市であるハノイから車で1時間の地方都市。そこまで田舎ではないけど、便利ではないし、農業が盛んといえるほど資材が充実していない。ビニール系はこの店、工具系はこの店、配管はこの店、っていうふうに1軒1軒まわらないといけないし、在庫もクオリティも店によって違う。少しでもいい店安い店を見つけるのが本当に大変。

クオリティに関してもう少し言うと、ココ(ハナム省)の資材はホント最低限。じょうろなんて、釘で穴空けたの?っていうくらいにドボドボと水が出て来る。これじゃあ植物体に物理攻撃しかけてるようなもんだし、ハンマーなんかも楔(くさび)がついてないので、ヘッドの部分が打っている時にすっぽぬけたりするというマヌケな自体もしばしば。クワとかスコップも同様、且つ柄の部分が適当に切られていて重い。全然洗練されてない。そもそも使う人のことを考えられてない。

播種機を使ったときなんて、ベトナム人は目が点になったように見つめてて、「これいいなぁ俺にも貸してくれ」って顔してたし実際に言われた。ベトナムの農家は手で条蒔きや点播するスタイルなので、メジャーで間隔を確認しながら中腰を維持しなきゃいけない。キレイにまこうとおもうと1時間も2時間もかかってしまう。それが日本の機材を使えば間隔もギアの設定を変えるだけで自由自在だし、普通に立ったまま機材を土の上でころがすだけで10分もかからないという、歴然たる差。

他にも手袋なんかも現地の人は使わないので手は荒れ放題。長靴は流石にあるけど、日本みたく高機能じゃない最低限のもの。

土作りの資材に関しても、できあいの良質な培土なんか無いし、良質な堆肥を販売する肉牛屋や酪農屋もいない(探せていないだけかもしれない)。ミネラル資材なんかも、かなり苦労して探してホーチミンから取り寄せた。が、石灰なんかは良質なものが手に入らなかった。

ということで、ベトナムの、殊に自分らの周辺地域において農業をする上では、道具や資材や機材を充実させることが先決のように感じた。

私も1年前までは四六時中スマフォアプリ開発に携わっていたので、農業xIoTだのスマート農業だのは興味がある。前職で培った技術を活かしたい、早く何か作りたい。そういう気持ちはあるんだけど、上記のような、現場において感じる課題をいくつも見出して、それをどう解決していけばいいのか、どうしたらビジネスにすることができるのか、それぞれのピースを集めてはくっつけてを繰り返して進めていければと、思った。

ちょっと余談。日本でも欧米でもよくagTechとかスマート農業とか言って騒がれるけども、ベトナムを含む東南アジアにおいては、そういう言葉が使われる場面が違うなーと思う。日本なんかはドローンで農場管理とか収穫ロボとか、環境制御ハウス〜とかいってて既に普通に作物が作れる上での省コスト化をどう進めるか、みたいな場面で良く使われる印象。一方で、東南アジアはそもそもどうやったらいい作物を作れるの、とかどうやったら貧しい農家を救えるの、みたいな場面で使われる印象。農機無いのでレンタルしあいましょうっていうサービスとか、農家用のクラウドファンディングサービスとか。

後者は、今この時代だからこそ出来る発想で、とてもおもしろいなーと思う。なんというか、日本を含め先進国が積み重ねてきた苦労を踏み台にして、サクッと飛び越えていくような、超右肩上がりに成長するんじゃないかっていうワクワク感がある。こういうズルいITの使い方こそが、東南アジアの発展を加速させ、世界をより良い方向に導くんだろうなと期待してしまう。UberとかGrab Taxiしかり。日本のいわゆる失われた20年で10代20代を過ごした自分としては、そういうワクワク感を体験してみたいって気持ちがあるんだろうな〜(なぜか80年代の歌謡曲も大好きだし)。だから今自分はベトナムなんぞにいるんだろなーと思ったり。

以上、明日も元気にがむばります。

バンガロールの投資家や起業家が集まるINVEST KARNATAKA 2016でアグリビジネスセミナーに参加してきた

INVEST KARNATAKA 2016って?

インドのバンガロールでオーガニック日本食ブランドを立ち上げ中の鴛渕さん(前回記事参照)にこんなのがあるよと教えてもらったのが、INVEST KARNATAKA 2016というイベント。

f:id:mitolab:20160211144242p:plain http://investkarnataka.co.in/

こちらのイベントは、2/1~2/3に渡って、バンガロールの属するカルナータカ州が主催する州の産業の各セクター見本市及びカンファレンス、セミナー、BtoBmeetingの場を提供することで同州への企業進出や投資を促すもの。インドのシリコンバレーと言われるバンガロールはインドの中でも重要な稼ぎ頭なのかもしれません。私が参加したセミナーだけでものすごい量の資料でした。

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設備も警備体制もかなりのもので力入っていました。

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ちなみに、本家シリコンバレーのこういうカンファレンス系イベントは10~20万円の法外なお金を取られるようです(ex:World Agri-Tech Investment Summit)が、こちらは政府主導ということもあってかvisitorであればだれでも参加できて無料です。しかも大抵のところは見て回れるので最高です。なので若い人もかなり多かった印象です。

こちら(↓)のイベントカレンダーをみると大体どんな内容が繰り広げられているのか分かります。

Event Schedule

私は農業のことに興味があったので、イベント初日の、Agri-Business & Food Processing セミナーに参加してきました。

Agri-Business & Food Processing セミナーについて

まずつっこみどころとして、開始が30分くらい遅れて、終了も40分押しとなっていました(笑)。インド文化なのでしょうか? また、スピーカーが14名ほどいらっしゃってその内キレイな英語を喋られていたのは2,3名の方くらいでした。残りの方はインド英語だったので正直かなりの部分は聞き取れなかったです。インドで生きてくには、別で"インド英語"を勉強する必要がありそうです...。

上記の理由もあり、セミナー自体から汲みとった内容は少ないですが、とにかく「州によるかなり強いバックアップ体制があるので心配ないぞ!どんどん投資しろ!」というメッセージは汲み取ることができました。

以降は、資料が非常に充実していたので、そちらを参照しながら内容をかいつまんでみます。

カルナータカ州のアグリビジネスの強み

  • 食料加工セクターの2009-2013年までの年成長率は20%、国の平均成長率16%を上回る数値
  • 2014-2015年のUSD20億ドルの輸出額で、年率成長率は22% -カルナータカ州は10個の気候エリア、6つの土壌性質をもつエリアに分けられるため様々な種類の農作物を育てることができる

また、以下の作物はインドの中でも有数の生産高を誇るそう。

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このランクにある作物を見るだけでもかなり幅広い作物が取れていることが伺えますね。

余談ですが、ランク1にあるコーヒーは確かに街中でもコーヒースタンドがたくさんあって立ち飲みしてる人が多かったように思います。あでもコーヒーじゃなくてチャイ飲んでたのかな...?ただCafe Coffee Dayというコーヒーフランチャイズショップは最近やたら多かったです。スタバの超廉価版って感じ。かのセコイヤキャピタルインド支部も投資をしてIPOによりリターンを得ていたようです。

Sequoia to get 18% return on Cafe Coffee Day exit | Business Standard News

カルナータカ州のアグリビジネスエコシステム

優れたインフラと人材

  • 6つのフードパーク(水や電気、洪水時の排水システムなどアグリビジネスに適したエリア)を有し、4つは稼働中、2つは建設中。それともう1つメガフードパークっていうのもある
  • 2百万トン収容可能な工場、30万トンの貯蔵庫が稼働中
  • 農業や園芸農業に関する国の研究機関が5つもあり、同分野のHUBとなっている
  • 農業、園芸農業、獣医学のトレーニングをうけた4000人もの学位を持った人間が毎年輩出される

優れたマーケットと貿易拠点

  • 同州はインドで初めて花卉国際オークションセンターが設置され花卉輸出の中心地となっている
  • カルナータカはgherkin(キュウリ)、rose onion(赤玉ねぎ)、切り花の国内でも有数の輸出州

豊富な貸付可能地

  • 6つのフードパーク内に380エーカーもの貸付可能地がある
  • KIADBというところでは今すぐにでも利用可能な貸付可能地が6000エーカー以上ある

カルナータカ州政府のサポート

  • MSME(Micro, Small & Medium Enterprises)に対して固定資産35%の補助金を提供(上限650万ルピー)
  • 税金の75%が5年間免除される(固定資産に関しては、MSMEは100%免除を上限、カテゴリABCの企業はそれぞれ60~80%が上限)
  • 毎年(最高7年間)利益の6%を補助
  • 国立研究所の開発した技術を適用すると、導入コストの50%(最大100万ルピー)を補助する
  • その他印紙税(Stamp duty)の免除、入境税(Entry tax)、電気税(Electricity tax)、農地転用費を最大100%免除など

※ 日本円はルピーの大体1.6倍です(2016年2月11日現在)

オーガニック農業に関して

どの発表者もそれほど言及はしていませんでしたが(多分)、インドでAmazonを凌ぐといわれるECサイト BigBasketのCEO(もしくはその代理の方)が「オーガニックの需要は高まっいて、消費者は"本物の"認証のついたオーガニックを求めている」おっしゃっていたのが印象的でした。

インドではオーガニック商品は一般の商品の15~20%の高さで取引されているそうですが、その事を逆手にとって"本物"ではないものも横行しているとか。だからこそ消費者は本物を求めるのでしょうね。

また、資料を見てみると、オーガニック農業について多少言及されていましたが、ほんとかよっていうレベルのものでした。一部抜粋すると、

政府がオーガニック農家の組合を設立し、オーガニック作物のマーケティングを先導する

とありましたが、現時点でどこまで進んでいるか、有効性があるのかわからないですね。また、

"Savayava Bhagya Yojane" というオーガニック農業のプログラムを実施し、63677haが認証オーガニック耕作地になった。これによって5.4万人の農家がオーガニック農家に

みたいな記述もあったのですが、いかんせん継続性がなければすぐに慣行農業に戻るでしょうし、耕作地の広さだけでいっても生産性が上がらなければ利益はそこまで上げられないと思います。実際のところはどうなんでしょうか。

参考: Savayava Bhagya Yojane | Green Foundation

"貧しい農家"を減らしたいという想い

農業・食品加工セクターの州政府名誉大臣であるSri. Krishna Byregowdaさんが

  • 既存農家のインカムを上げることが命題
  • 農家とユーザを直接結びつけて中間卸をなくす

とゆっくり力強く語っていた姿が印象的でした。観客もみなこの方の言葉の節々で拍手をしたり声を上げたりしていました。よほど共感したんだと思います。

特にインドでは、所得の少ない農家の貧困による自殺や、農薬被害、中間業者による悪質な中抜などがあるそうです。また、カルナータカでも州の人口の60%が農民ということで、州としても州民としても命題であることは確かなのだろうなと思いました。

参考:

農民の自殺、インドで増加-綿花価格下落で地方の貧困深刻化 - Bloomberg

Amulモデルがインドの農業を変える!? | AGRI IN ASIA

全体の感想

かなり言葉の壁があって、恥ずかしながら資料で知る情報の方が多かったです...。ただ州として支援する姿勢は今後も変わらなさそうですし、ここ5年くらいで確実に発展はしていくだろうなと感じました。オーガニック農業に関しては州として優先度は低そうですが、農家の教育を促してはいますし、支援制度を使うこともできると思うので、何かしら食品関連や農業関連でビジネスをしたい場合は期待はできそうだなと感じました。

インドのバンガロールで起業して4年目の方に教わった現地で起業する前に知っておきたい事6選

こんにちは、今インドのバンガロールにおります。なにをしているかというと、以前の記事で書いた通り、有機農業に関わる現地シーンの調査をしています。調査する中で最初に見つけたのが、Pebble Branding Pvt. Ltdの鴛渕貴子(おしぶち たかこ)さんのこちらのブログ記事↓

pebble.blog.jp

他の記事も生々しくて現地の様子がひしひしと伝わってきますし、3年間バンガロールでやってこられた方の言葉なので説得力が違います。これは是非お会いしたいと思いました。ダメ元でコンタクトをとってみると即レスでOK!直接お会いしてお話を伺うことができました。今回はその時のお話の中で、実際にインドで起業するとなった場合に個人的に参考にしたいと思った点をいくつかご紹介します。

その前に、鴛渕さんに関して

2012年暮れにインドのバンガロールでマーケティングの会社 Pebble Branding Pvt. Ltd を設立し、2013年1月に事業を開始。今年で4年目。

元々は日本食を海外に広める仕事がしたくて、テーマとなるものを探していたところ、味噌汁に目をつけた。味噌汁をプロモーションする上で海外市場調査をしていた折、たまたま訪れることになったインドでマーケティングを敢行しインドでのマーケティングやプロモーションのニーズを感じた。中でも市場として一番可能性を感じたバンガロールで起業することを決めたそう。

味噌汁のマーケティングをしていた時の動画がこちら↓

youtu.be

起業のきっかけを1分でまとめた動画がこちら↓

www.youtube.com

4年目の今年は、市場に切り込む機が熟したということで、InBentoというオーガニック野菜を使った日本食ブランドを立ち上げ、絶賛商品開発中。InBentoに関しては英語ですが現地メディアにも取り上げられていて、詳しく書かれていますのでそちらも是非ご一読を。

www.bangaloremirror.com

それと、今絶賛インターン生募集中だそう。詳しくはこちらの記事を御覧ください!

私がお会いした時はちょうど鼻風邪をひかれていたのにも関わらず、時間を割いていただきました。体調悪いにも関わらず、すごいエネルギッシュな方だなぁと感じました。

1. インド人とは時間をかけて信頼関係を築いていくことが必要

インド人にxx日まで○○してってお仕事を依頼しても守らないのは当たり前だそう。また内容も間違えていることがあるので、手間にはなりますが逐一進捗状況を確認することが大事で、そうやって少しずつ築いた信頼関係は後々強いものになるそうです。なのでインドで勝負するなら長い期間居ないとダメだなというのは経験則としてあるそうです。

なんか時間かかりそうだな...というのは1週間の滞在でもなんとなく理解できて、例えばSIMを買いたいとインド人に聞くと、まったく検討違いなところに案内されてたらい回しにあいました。道を聞いても適当に答えられたりとかもしばしば。親切心からか"NO"とは言わないようで、適当でもなんとか期待に答えようとしちゃうみたいです。でも知らないなら知らないと言って欲しいものです...そのほうが時間の短縮になるので。

2. インド人は思いついたらすぐ起業する

インドは世界で2番目に起業数が多いそうです。誰かが例えばデリバリーサービスを始めると自分も自分も!という感じでどんどん起業しちゃうそう。それと日本人の感覚ではありえないけど、例えば飲食店で内装が出来上がっていなくてもお店をオープンしたりするそう。そういうスピード感なので、ちょっと日本に帰国している時でも、誰かに先を越されるんじゃないかとドキドキするとおっしゃっていました。

3. インド人はレビューしたがり?

これは鴛渕さんにお話を伺ったレストランでの出来事なんですが、食事が一通り終わって会計した後、店員がタブレット端末を持ってきて、レビューしてよ!って言ってきました。てっきり2~3個の選択式のものかな?と思ったら、なんと6ページにまたがって細かく記載するものでした。選択式のものからどこか改善点はないですか?みたいな自由記述までありました↓。

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鴛渕さんに聞いた所、結構インド人はこういうのも好きできちんと入力するそうです。日本人の感覚からすると「いや〜〜細か過ぎる!めんどくさい!」と思うのですが、インド人にとってはそうでもないようですね。。

ただこれはサービスを展開する上では、ユーザの意見がストレス無く得られるので結構ありがたいのかもしれません。

4. オンラインサービスがとても充実している

鴛渕さんはバンガロールではほぼオンラインサービスで生活しているそうです。Uberで車手配して、デリバリーで食事して、病院の手配、クリーニング、食材購入も全てオンラインでできるし金額も東京より全然安いとのこと。また、お肉のデリバリーを頼んだ時に、30分で配達員が来た時もあり、さすがに早すぎだろ(笑)と思うこともあったそうです。

Uberや弁当を運んでくれるbento.jpといったサービスは日本でもありますが、価格が高くてリッチピーポーのものっていう印象が強いですが、バンガロールは日本に比べると全然安いので私みたいな普通の日本人でも普段使いできます。

ちなみに、バンガロールで最近流行っているオンラインサービスを紹介してくれたので少しリストしてみます。

OYOROOMS

www.oyorooms.com

質の高いお部屋を提供してくれるオンライン予約サービス。ファウンダーの方が某ホテル予約サービスを利用した時に、web上で見たのと違う/質が悪いというのを体験し、それを改善すべく立ち上げたそう。OYOROOMSはサービスの最低ラインを設けていて、それにクリアしたホテルはOYOROOMSのブランドに参加できるようです。

私もこのサービスを実際に使ってみたのですが、すごく満足度高くてビックリしました。予約から宿泊までのプロセスがすごく簡略化されていてストレスフリーですし、実際にお部屋もwebで見たものとほんと変わりません。朝食とFreeWifiがOYOROOMの全てのホテルで標準装備されているのもステキなポイントです。価格帯もぶっちゃけAirbnbと同じくらいなので断然こちらをオススメします。

SWIGGY

www.swiggy.com

今まで飲食店ではデリバリーをするにしても、そのためのシステム開発や輸送コストが障壁になりなかなか導入できなかったが、Swiggyがそれらを代わりに用意することで、飲食店はコストゼロで導入できるようになったそう。一方でユーザはアプリやwebサイトから食事を簡単に注文することができます。飲食店は収益プラスにはなってもマイナスにはならないのでマージンが高めだとしても導入するそう。

2015年の1月に導入件数が50件だったものが、同年8月には5000件とすごい伸びとのことで、その成長をみて投資が集まり、類似サービスもどんどん出てきているそうです。

またバンガロールは渋滞が激しいし空気もそんなに良くないので、オンラインのサービスが成長する土壌があるそうです。

OLA CAB

www.olacabs.com

こちらは、SoftBankも投資しているインドで最大の配車サービス。ステキなのは、現地でオートとかリキシャと呼ばれる3輪車タイプの乗り物も呼べること。また他の車のタイプも呼べますし、複数人でシェアライドするとディスカウントを受けることもできます。アプリが距離に応じて価格を決めるのでボッタクリにあうこともありません。

私も使ってみたのですが、とても便利でバンガロールではたいていこれで移動しています。ただ混雑時間帯は価格が1.5~3倍に上がったり、電話で運転手とやりとりするのですがインド英語で喋られるとうまいことコミュニケーションとれなくて若干ストレスだったりします。

SAKURA FRESH

www.sakurafresh.com

こちらは、バンガロール近郊でオーガニック野菜を自社農場で生産し、デリバリーで届けてくれるサービス。安全性に重きを置いていて、UNのCodexという厳しい品質基準にも準拠しているそう(インドは世界標準の5~15倍もの農薬を使っているらしい)。品質においてもかなり高いようで、リッツカールトンやヒルトンといった高級ホテルやレストラン、またインドで最大手のECサイトBigBasketにも卸しているそうです。

またちょっとおもしろいのは、経営者の方々。兄弟+いとこのシリアルアントレプレナーの3名で経営されているようで、元々はカナダでパイロットをしていた弟のNameetさんが、妊娠中の奥さんに何を食べさせた方がいいのか考えたところから始まったそう。お兄さんのNaveenさんは、元々HPのエンジニアさんで今も日本を拠点に海外展開(特に東南アジア)や日本展開を担当してらっしゃっていて、いとこのK. N. Prasadさんが現地の物流やサプライチェーンの管理を行っています。

英語ですが、以下の記事が詳しいです。

Planting a Seed for Higher Standards in Indian Agriculture

First Agro serves the safest food in the world.

5. バンガロールは敷金が10ヶ月!

高すぎる...。今は気候の良さや外国人需要を受けて不動産バブルらしく、売り手市場のようです。

6. インド人はソースをつけるっていう所作が好きらしい

鴛渕さんは、これまで何度かInBentoのマーケティングのために高所得層が集まるフードフェスに参加したそう。そこでは手巻き寿司タイプのお弁当と、現地で調達したソースを用意してdipできるようにしてみたところ、好評だったそうで「いつ出るんだ!」みたいな嬉しい反応もあったそうです。

というのも、インド人はカレーをご飯とごちゃごちゃに混ぜて食べるくらいなんで、「ご飯を汁物(ここではソース)につける」っていうのは、インド人の食習慣に沿っているようです。

ターゲットをインド人とする場合は、文化や習慣などを理解してそれに則った商品やサービスを提供することが肝要そうです。

鴛渕さんの名言

「私は東京にいる時の方がイライラしてた。東京だとできて当たり前で少しずれると全てが崩れていく。でもインドだと、基本ずれるのでそれを前提にしていると、精神的にはイライラしない。」

バンガロールは日本の軽井沢」

私もインドに住んでみればこう思えるのだろうか...怪しいものです。たくましくなりたい。

まとめ

この街で生きていくには、街の成長にのっかって自分も成長していく気合とスピード感が必要だなと感じました。と同時にゼロからインド人ネットワークを築いていくことは時間がかかるとのことなので、いきなり起業ではなく現地で良いなと思った企業に勤めたり、一緒に仕事をしてみることから始めたほうが得策なのかもしれません。

久松達央さんの「キレイゴトぬきの農業論」を読んで目からウロコだった件

私は今フリーランスのアプリエンジニアなわけですが、次は自然と対峙する仕事をしたいと思っていて、農業関連の本を読み漁ったり、ネット上で記事を読んだりして、どういう農業があるのか、どうやって始められるのか、自身のもてるスキルをどのように活かせるのか...etcを調べているところです。

その中で、最近特に重点的に調べていたのが、有機農業です。有機農業に注目し始めたのは、以前『タイでエンジニアから転身、堆肥を変えて高単価なオーガニック野菜を作る、大根田さんにお会いしてきました』 でインタビューして以降になります。

有機農業といえば、自分の中では、"環境に優しくて高単価な野菜作りができるが、ただその分難しい農業だからやっている人は少ない"というイメージでした。でも個人的には、それがビジネスチャンスに思えて、且つ自分自身の持つスキル(大したことないのに...)で改善できる余地があるんじゃないかと漠然と妄想していました。

でも今回この本を読んで、そういう妄想から1歩進んで、多少実情に即したイメージを持てるようになったかな...と思っています。ということで今日はこの本を読んで特に目からウロコだった部分を引用しつつ、本の内容を章ごとにご紹介したいと思います。

キレイゴトぬきの農業論 (新潮新書)

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本の著者

この本の著者は、久松農園を経営している久松達央さん。脱サラ農業者で、日本一話のうまい農家と称され(自称?)、エロうまというコンセプトのもと、年に50品目もの有機野菜を作って個人の消費者や飲食店に直接販売するビジネスを行っています。

この本の特設ページもありましたので、そちらもご紹介しておきます。

久松農園オフィシャルサイト | 『キレイゴトぬきの農業論』特設ページ

目次

  • 第1章 有機農業三つの神話
  • 第2章 野菜がまずくなっている?
  • 第3章 虫や雑草と どう向き合うか
  • 第4章 小規模農家はゲリラ戦を戦う
  • 第5章 センスもガッツもなくていい
  • 第6章 ホーシャノーがやってきた
  • 第7章 「新参者」の農業論

有機野菜だから安全、環境にいい、美味しいは必ずしもそうではない

第一章では、「有機野菜だから安全、環境にいい、美味しい」というのは神話で、必ずしもそうではないという事をおっしゃっています。

"必ずしも美味しいわけではない"ということは、冒頭でご紹介したインタビュー時に聞いていたので驚きは無かったですが、その他2点はまさに目からウロコでした。

「有機だから安全」に異論を唱える根拠としては、

「仮にある農薬が、関連するすべての農産物に基準値上限まで残留していたとする。それを一生涯にわたって毎日、国民平均の100倍食べ続けたとしても、動物実験で健康に影響が出ない範囲に収まる」

という部分。今の農薬はその厳しい基準をクリアしているので、そういった農薬が使われている農作物でもほとんど安全といっていいそうです。むしろ、どんな食べ物でも毒性があれば食べ過ぎると死んじゃうよという話をされています。

また、「有機だから環境にいい」に対する反例として、

この紙マルチ栽培は突出して二酸化炭素の排出量が高かったのです。これは紙の製造工程で大量の二酸化炭素を出すためです。いくら田んぼでは「環境にいい」と言っても、その分のツケをよそに回しているのでは、この方法そのものが「環境にいい」とは言いづらいものがあります。

とおっしゃっています。

紙マルチ(google画像検索)栽培というのは、紙でできた素材を、種を植えた農地に被せることで除草剤を使わなくてすむようにする農業技術のようです。この技術を使うと、慣行農業に比べて、二酸化炭素の排出量が3倍以上も高くなるようです。

ということで、有機農業といっても、使う農薬や技術などによって、一概に安全とか環境にやさしいということは言えないようですし、どの程度使うかの問題でもありそうです。

いつでも平均値の野菜を、ではなく旬の時期に美味しい野菜を届ける

第2章では、ほうれん草の年間出荷量の推移をみて、今の時代周年で野菜は手に入るけど、その分輸送コストがかかっていたり、本来の味を出せていない。なので、著者の農園では、旬の時期に適した栽培方法と品種を使い、ベストな時期に収穫し、直送することでクオリティの高い野菜を消費者に提供しているというお話をされています。

有機農家として食っていくための理論と実践

第3章では、

有機栽培は生き物の仕組みを生かす方法である。 無農薬は食べる人の安全のためではなく、畑の生き物を殺さないため。 多様な作物を育て、生き物の種類と数を増やすことで、生産力の安定と質の向上を目指す。

といった、コンセプトを実践する上で実際に問題となってくる虫や病気、雑草とどう向き合うかについて、具体例を挙げて書かれています。その前に、野菜は自然に育てても育つものではないので手をかけてやる必要があるんだよ、という前提を説明されています。

またこの章で印象的だったのは、章の最後で、自身の農業観を吐露している部分です。

生き物の仕組みを利用する有機農業の技術は工夫に満ちた実に面白い試みだと思っています。特に、そのローテクな部分に惹かれます。大量のエネルギーを使うのではなく、もともと生き物が持っている力を上手に利用するところに美しさを感じます。

また、あえて難しいとされる露地での有機農業をする理由について、

生き物を扱っている以上、最後のところは生命力を直接感じる環境の中で仕事をしたい、(中略) 地下足袋で土を踏みしめる感覚や、畑全面に色とりどりに広がる作物を吹き抜ける風の匂い。そういう身体的な感覚が、農業を続ける上で僕には重要な要素なのです。

とおっしゃっている一方で、有機農業は人件費も販売価格も高くなるけども、結局それに見合うだけの市場価値を見つけてこそビジネスが成り立つ、といもおっしゃっていました。

この部分から、経営者としてぶれない軸をもっている事と、いかにビジネスを回していくかを両方意識してらっしゃるのを感じることができたし、単純にとても共感できる考え方だったので、印象に残っています。

有機農家の生存戦略

第4章では、著者自身が有機農業をするうえでのWhat(目的)、How(どのように)を紹介し、そのメリット・デメリットや考え方を説明しています。この章で私は一番多くマーカーを引いていたので、個人的にはこの章が一番参考になったんだと思います。

著者の場合、世襲制の農家とは違い、新規就農者という土地も設備も技術も最弱の立ち位置にあることを前提に、 What(目的)は「美味しい野菜でお客さんに感動してもらうこと」。How(どのように)は「適した時期に、適した品種を健康に育て、鮮度良く届ける」ために「消費者直販の有機農業」という形をとった、とありました。

で、自身の目指す農業の強み・弱みを明確にした上で、どこに市場を求めればいいか、どういう戦略がうまくいったかを説明していました。 具体的な戦略は以下のとおりです。

  1. 安売りの土俵に乗らない
  2. 引っかかりは多い方がいい
  3. 手持ちの武器で戦う

どれもなるほどな、と思うものでした。詳しくは是非本書を買ってみてください(笑)。

農業は思ったほど効率化されていない

第5章では、農業の中で常識や慣例的に行われていることや、基本的なところからすべて考えなおしてロジカルに考えれば、効率化できる、ということを様々な事例を通しておっしゃっています。

3.11で気づいたこと

第6章では、3.11の際に起きた出来事やそこから得られた事について書かれています。

2011年3月の東日本大地震では、廃業を覚悟するところまで追い込まれたけど、3月末頃からのネットを中心にした支援活動のおかげでなんとかしのぐことができたそうです。

特に印象に残っているのは、政府が補償金を出すといったが、なんだかモヤモヤして受け取る気にならない、というくだりです。

「こんなに好きな仕事なのに、もう農業はできないんだ。これまで、いい夢見させてもらったなぁ」 そう思うと涙が溢れて来ました。悲しいというよりも、失恋のような気持ちです。楽しかった日々が思い出に変わってしまう寂しさを感じました。

この後つらつらと話は続いて、補償金を受け取らない理由もおっしゃるのですが、上記の言葉だけで筆者がどれだけ農業が好きか、どれだけ続けたいと思っているかが伝わってきて、補償金云々じゃあ気持ちは晴れないだろうなというのは情景から伝わってきました。

「新参者」の農業論

最後の第7章は、職業としての農業と産業としての農業に対して、著者が感じている問題点を議論する章になっています。

この章で一番衝撃だったのは、

農業者が変われない一番の理由は、やはりお金に困っていないから

という部分。というのも、私が東南アジア各地の農業について聞いた事と同じことをおっしゃっていたからです。

私は一度ベトナムのダラットという、現地では有名な農業地のはずれの街に訪れたことがありました。そこで、とある農家さんを訪れたのですが、立派な家に立派な家具、1.5ヘクタール程の土地をもって家族と幸せそうに暮らしていました。そこで「有機農業を始めたい?」という質問をしてみたのですが、「買い手も居ないものを作るリスクは負えない」という旨の事をおっしゃっていました。その他色々聞いてみたのですが、あえて新しいことにトライする必要がないくらい充実した生活を送っているようでした。しかも、これがこの地域で一般的な農家だと言うのです。

日本とベトナムで歴史こそ違えど、やはり困っていることがなければ発展する必要性はないんだなと、著者がしきりにいっていた、「水は低きにながれる」という言葉が身にしみました。

全体としての感想

この本は、新規就農を目指している方にピッタリだと思います。 実際に新規就農から10年以上農業を続けている著者のリアルな意見や情報を知ることができますし、著者の考え方に共感できる部分を自分の糧にして、自分のしたい農業のイメージを具体的につくっていけそうな気がしました。

1つ気になった点

全体的に目からウロコのことが多く良い内容なのですが、 時々自分を卑下して慣行農業の人をヨイショしているようで、実は自分の方が優れているよね、みたいな言い方に感じられて少し感じ悪かったです(笑)。

自分は体力がないし、センスもガッツもないからロジカルに考えてこうした。慣行農業ではセンスとガッツでやってけるんだよね〜って、これネガティブに言うと、慣行農業はなんとなく根性でやってけてるんだよね〜っていうふうにも受け取られれかねないので怖いなと...。ただ、これが本当であれば、これ以上柔らかい書き方もできそうにないので難しいところだなとも思いました。

ただ「まして奇跡をおこすなどできません」っていうくだりは、奇跡のりんごへの当て付けとも捉えられます。この辺はあえて揶揄しなくてもスルーしてあげるのが紳士じゃないのでしょうか...。

ただそれでも物怖じせず言うところは、この業界に風穴を空ける意志を感じて、(上から目線ですがw)ガッツあるなと思いました。

参考

右左よくわからないのですが、以下の記事は日本の農業の歴史を垣間見ることができて、なぜ日本の農業が成長できていないのかを考える上で参考になりました。

TPPの罠 第6回 安倍強い農業の壮大なる“虚構”

最近のマレーシアの農業事情

ども、インドに2/1から行くのですが、その次はマレーシアに行く予定です。ということでマレーシアの、特に農業事情やagtechのことを調べてみました。

マレーシアって?

人口は約3000万人、首都はクアラルンプール。名目GDPは5%前後でASEAN諸国では中間くらい。1人当たりの名目GDPは25,638ドル(2014年, 世界銀行)でASEANではシンガポールについで2位の水準。

言語はマレー語、英語。民族は多民族国家で、マレー系、中国系、インド系の順に多い。宗教はイスラム教が60%、次に仏教20%、キリスト教9%、ヒンズー教6%。政体は立憲君主制

その他基本的な事項は以下でどうぞ。

マレーシア基礎データ | 外務省

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マレーシアの農業事情

マレーシアは元々資源が豊富で、天然ガスや原油の輸出が盛んです。農業の分野でもパーム油の輸出量は現在も世界屈指だそうです。 国内総生産における農業の割合は、約9%(*1)とASEAN諸国では低めですし、農村人口もASEAN諸国の中では唯一減少に転じていますが、恵まれた資源を背景に工業化してきたおかげで、アジアの中でも有数の投資環境となり、農業の分野においても他国と協力し高度化を図っているようです。

参考:

agrinasia.com

農林金融2014年12月号 より、以下画像参照。

f:id:mitolab:20160126165153p:plain

f:id:mitolab:20160126170034p:plain

土地生産性: 農業生産額÷農業用地面積

労働生産性: 農業生産額÷農業従事者数

これらの状況を見ると、農業の生産額はそれほどないかもしれませんが、高度化という面では他のASEAN諸国よりもかなり進んでいると思われます。

一方で、国内食料自給率を品目別に見てみると、鳥肉や魚介類の受給率は100%なのに対して、コメは70%、野菜は66%、果物は40%程度と、自給率はまだまだ良くはないです。しかもマレーシアの人口の60%を占めるイスラム教徒はハラール食を食べると思われるので、その辺も考慮すると、より自給率を上げていく必要がありそうですね。

参考:

nna.jp

malaysia-ryugaku.hateblo.jp

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h23/pdf/asia03.pdf

AEC(ASEAN経済共同体)(*2)による農業への影響

2013年時点の記事内にて、テンク・アリフ氏(マレーシア農業研究開発研究所経済技術管理研究センター長)によると、

ASEAN域内の農産物貿易では,マレーシアは既に92%の品目で,関税を撤廃していて,現在でも保護されているのは,コメ,アルコール類,タバコなどの限られた品目です。

また、

ASEAN域内の関税はすでに撤廃されていることや,非関税障壁と行政手続きによる事実上の保護政策が存在していることを考慮すると,AECがマレーシア農業に与える影響は,あまりないと考えられます。農業部門に限らないAECの全体的な影響としては,自由化による全般的な経済厚生の増加と海外からの直接投資の増加が期待されます。

とのことで、マレーシアでは国内の農産業に与える影響は少なく、むしろ海外からの投資が集まり農業分野においても高度化の好機になると思われます。

先進的な取り組みを行っている農家・企業

techなところはなかなか探せず...とりあえず調べた分だけリストしてみます。

ハッピーフレッシュ... お野菜の速達サービス

シリーズAに参加したファンドに、500startupがいたり、日本のファンドBEENEXTがいたり、注目度は高いようです。→ agFundernews

TITI ECO FARM... いわゆるエコツーリズム。宿と、農業体験、有機野菜やオーガニック商品の販売をしているようです。サイトがとても綺麗です。

ZENXIN... オーガニックフードを中心に6次産業的に事業を展開している企業。各国のオーガニック認証も受けているようです。サイトが充実していてありがたいです。

以上です。

*1) マレーシア基礎データ | 外務省 より

*2) AECというのは、ASEANが掲げる3つの共同体(安全保障共同体、経済共同体、社会・文化共同体)のうちの1つです。2015年の12月31日をもって発足しました。AECでは、ASEAN域内での物品の自由な移動、サービス貿易の自由化、投資の自由化、資本の自由な移動、熟練労働者の自由な移動等がうたわれています。2009年に各共同体のロードマップが制定され、そのうち経済共同体に関しては以下のように記述されています。via 経済産業省: 東アジア統合に向けて