mitolab's diary

東南アジアで頑張って生きてる人のブログ

ベトナムの片田舎で約1年間、未経験から農業をしてみての振り返り

今後ベトナムで何かしら農業関連事業を始めようと考えてる方の参考になればと思い、1年間の農業修行の振り返りを書いてみます。

Tl;Dr

事業開始前に、事業内容にフィットする現地パートナーを見つけましょう。

※ 時間が有る方は下も読んでみて下さい。

最初の2,3ヶ月

mitolab.hatenablog.com

こんな感じで駆け抜けました。

ベトナムの片田舎で何をしていたのか?

ハノイから60km南に下ったハナム省というところで、約1年間のとある農業プロジェクトに参画しておりました。

そこで、現地でビジネス化するためのフィージビリティ・スタディみたいなていで、日本の栽培技術で作った野菜とベトナムの一般的な技術で作った野菜の比較栽培を行い、収量、見た目、栄養価などにどのくらい差異が出るかという試験栽培を、1000㎡ほどの小さな面積で行っていました。

なぜに農業、なぜベトナム

なぜ農業かと言えば、元々自然に触れるのが好きだったことと、効率化が進んでいない分野であったこと、自分のスキルセットが活かせるのではと思ったことが大きいです*1。より具体的には、ITx農業のサービスを志しているのですが、それをするにしても使えないものが多いことを知っていたので、じゃあ現場に入ってみたらいいのでは?っていう精神から。

なぜベトナムかというと、農業に関して言えば、ベトナムの立地が良いこと、農業の高度化に力を入れていることが大きいです。それ以外だと、経済成長率も高く、生産年齢人口も多く、今後の成長が見込めること、生活コストが低いこと、あとは食べ物や文化が近いことなども魅力の1つです。

ハナム省について

住んでいるハナム省は、首都ハノイに隣接しており、全人口は約80万人、そのうち農業人口が約60%を占めます。面積は新潟の佐渡島くらいの大きさで、田園風景が広がるベトナム北部ではよくある省のうちの1つだと思います。工業団地もいくつか点在しているので、工業もある程度盛んかと思います。大きなトラックもよく見かけます。

その中心であるフーリー市の雰囲気はというと、特段大きな観光地があるわけでもなく、小さな商店はやたら多い一般的なベトナムの田舎街...という感じかと思います。最近ロッテリアや全国チェーンのホテルやホテルに付属するやや大きめのスーパーができたくらいです。雰囲気はこの動画を参照。

www.youtube.com

ただ農業の分野においては、ハナム省は、以前から同省内の"ハイテク農業用地"へ入居する企業を積極的に誘致しています。

vietnam.vnanet.vn

このように国の首相が直接省に出向いてアピールをしたり、

ハイテク農業向け融資資金の総額を60兆VND(約3020億円)から100兆VND(約5030億円)に引き上げ

via フック首相がハイテク農業発展策表明、融資資金100兆VNDに [経済] - VIETJOベトナムニュース

を行うなどして、農業のハイテク化を推し進めています*2

また外資企業に対しては、ジャパンデスクなる日本語が話せるスタッフが常駐し、日系企業との窓口となっていることも特徴の1つです。我々もそのスタッフにお世話になりました。

プロジェクトの結果はどうだったのか

プロジェクトの性質上あまり情報開示できないので詳しいことは書けなくて申し訳ないのですが、結果としては、日本で手に入る野菜と同等のクオリティとまではいきませんが、ベトナムのそれと比べると良いものができました。写真などは以下ブログエントリーをみてもらるとわかるかと思います。

vietagri.asia

振り返ってみて思うこと

野菜栽培について

やっぱり日本は恵まれている。ということに尽きるなと。何をするにしても資材の充実度や質が違います。素材が違えば、出来るものも当然違ってきます。結局いい野菜を作るにはいい素材から、ということを改めて痛感しました。

特に我々が行った無農薬・土耕で栽培するのであれば、

  • 良質な堆肥、窒素系肥料、ミネラル、微生物系資材
  • 野菜に合わせた土質改善
  • グリーンハウスやネット、耕運機、農具系資材の充実

これらはかなり重要です。どの辺が妥協点かは、どういうミッション・ビジネスモデルかによると思いますが、正直、この辺を整えずに生産に挑むと、流通・販売の面でしわよせがくる可能性が高いと思います。

自社で情報もつてもゼロからそれらを調達するのは難しいので、これが1番言いたいことだったりするんですが、信頼のおける現地パートナーを探すのがまず先かもしれません。

生産チーム作りに関して

今回の経験をふまえて、こういう構成なら良かったな、というのが以下です。いかんせん今回は圃場面積が小さかった(1000㎡)ので実際の人数は変わると思いますが、構成は再利用可能かなと思います。

  1. 日本人マネージャ: 1名
  2. ベトナム人マネージャ(日本語 or 英語OKな人): 1名
  3. ワーカー: 適宜 (現地の手練な中高年の方々や高齢者の方々)

基本は、2の人がワーカーさんへの指示出しとケア、圃場の管理を行い、1の人が適宜2とコミュニケーションを取って進める形がいいのかなと思いました。普通かもですが。できれば2の人は農大卒で技術修得や向上心に溢れた方で且つ女性の方が良い気がします。差別するわけじゃないんですが女性の方が気遣いが出来る方多いのと、ワーカーさんは女性が多くコミュニケーション取りやすいだろうということが理由です。また、後々生産を拡大することや、人材の豊富さを考えると、1と2は英語でコミュニケーションが出来た方が良いと思います。

インフラについて

土地選びはぬかりなく

何回か冠水したんですが、1番ひどかったのは2017年10月中旬、ベトナム中北部で死人が出てしまうほどの記録的な豪雨により、我々の圃場含む地域一帯が半月ほど冠水しました。どのくらいの冠水かというと、畑で釣りや漁をする人が出るくらいには冠水しました。畑で魚を捕る意味がわからないです...。

f:id:mitolab:20180131220134j:plain

幸い、試験栽培期間が終了してからの出来事だったので、大事には至りませんでしたが、自主的に行っていた試験栽培の苗はすべてダメになりましたし、倉庫の肥料や資材なども大量に水に浸かり利用不能に。地面はヘドロがたまり、モノが散乱し、すさまじい状況でした。

我々は予め土地を選べる状態になかったので致し方なかったですが、事業として農業生産を始められるならば、当然ながらきちんと土地の高低データを把握してから決めましょう。そこ大事です。

安定供給可能な水源の確保

仮に水路があっても、水質検査は確実に、安全性を顧客に担保するならば、定期的にしたほうがいいでしょう。且つ、安定的に供給されるかも大事です。大きな水源から引かれているか、水門はどこが管理しているかなど、しっかり確認をとりましょう。我々もだいぶ苦労しました。

参考:

http://www.water.go.jp/kanto/sougicenter/guide/images/int01-4-001.JPG

via 水資源機構の国際業務の紹介 | 総合技術センター案内 | 独立行政法人 水資源機構総合技術センター

電気・インターネット

我々の場合は、一部センサーでデータ取りをしていたこともあり、圃場にネットを配備していました。たまに家のネットが弱い時なんかは圃場にskypeしにくる、くらいには安定していました。が、電気自体は安定しない...一度近隣で大木の枝を伐採していて、その枝が電線に触れて電気が止まるとかありました。予告なしの停電もあり、微生物培養中にそれがあって、微生物が活性化せずスケジュール遅れるとかもありました。

農業ビジネスをする上でポイントと思われる点

販売方法

ベトナムでは、野菜の値段が安い*3ので、現地の品種で現地の資材で作る分には規模の経済かと思います。ではなく生産物+αで勝負するなら、面積はある程度小さく維持して、品種も資材も厳選してブランドものとして富裕層やホテルにUXを超良くして売るというのは試せるかなと思いました、体験とセットで売ることも考えられますし。でないとただでさえ日系企業や既存のベトナム企業が生産事業をする中で差別化が難しそう...。生産物以外で勝負する選択肢、加工であったり飲食などもあると思うのですが、それはそれで幅が広いので今回はパスです。

資材

あと生産する上で1番困ったのが、資材が圧倒的に足りないよねってことだったのですが、じゃあ資材を自分らで輸入しよう!という風には考えられなかったです。すんごい激安で日本から仕入れられるとか、日本品質の廉価品を大量生産してくれる業者がいてくれればいんでしょうが、価格が高いと現地の農家相手にしても、採算がどうしてもあわないだろうなとか考えるとうーんという感じです。逆に、ベトナムで手に入る資材のデータベース、業者一覧、みたいなのはあったら凄い便利ですね!JETROさんとかが作ってそう。

天気

あと天気。ベトナム北部は本当に天気が悪い!曇りか雨がほとんどで、特に2017年なんかは、夏と感じた日が体感1ヶ月にも満たなかったです。そんな中普通に野菜を作ろうと思っても、結構厳しいものがあります。土地を選ぶという意味では、ベトナムの有名な農業地帯である、ダラット周辺が断然いいと思います(当然いい土地には外資が集中していますが)。土地を選ばないのであれば、品質劣化を覚悟するか、VinEcoがやっているような完全制御の水耕栽培ハウスなどが適しているように思います。初期投資は半端ないですが。もし独自技術や廉価バージョンで価格を抑えられるのであれば、可能性はあると思います。

人については、これも生産現場しか見てないのであれですが、圃場に農薬の袋をそのまま捨てる、使い終わった資材は洗わず放置する、ゴミを用水路そばにすてる、カマやハサミといった危ないものも畑に放置してるにもかかわらず裸足で歩いてたりとか、日本の常識には当てはまらない事が多いので、まずは日本のクオリティを望むならその辺の改善からという風に思いました。また生産者は高齢な方が多く、技術的な知識も昔ながらのやり方で、人によっては頑固でこっちのやり方に合わせてくれない人もいたりします。ただ、クワを扱う技術や、竹や地元で手に入るもので農具を自作したりなど、その辺の技術は凄くて、充分な資材の手に入らない状況下ではだいぶ助かりました。実家のおじいちゃんを思い出しました。

流通・販売

流通・販売までしていないのでそれらの裏側的なことは分からないですが、スーパーで売られているものを見る限りは、基本しなびたものや、傷ついたものが多いです。逆に市場は新鮮なモノが多いですが、イメージとして安全性はスーパーより劣るっていう感じです。ヒアリングによると、世代によってどこで買うか違うらしく、若い世代はスーパーで買うことが多く、年配の方は市場で買う人が多いみたいです。

輸送に関しても、VinグループのブランドVinEcoなんかは、自社で冷蔵トラックを契約して自社スーパーまで運んでいるので、品質は良いですが、そうしている所はまだ少ないと思います。あと、ラストワンマイルのバイク便輸送などはかなり雑なものを見かけることが多いので、きちんと作って最後の顧客に届けるまで品質を維持できると、それだけで単価あげられるのではないかと。

ITもしくはIoTで何か改善できる点はあったか?

今回は生産現場にいることが多かったのですが、ぶっちゃけそれ以前の問題すぎてITとかIoTの出番なしというのが本音です。デバイスが悪いとかソフトが悪いとかいうのではなく、まずは普通に良い物が作れて、マネジメントができて、コストに見合うビジネスモデルがあって初めて話題に挙がるものなので。

まとめ

いざ振り返ってみると、現地を良く知る、且つやろうとしているプロジェクトに関して経験の豊富なパートナーと一緒に進めていたらスムーズに行っていただろうなと思います。巨人の肩にのるじゃないですけど、過去に踏んだ轍をまた別の誰かが踏むのは非効率すぎます。ただでさえ共産国における外資は分が悪いので、プロジェクトを始める前にまずはパートナー探しから!

今後について

色々と大変ではありましたが、チームミトミネとしては次のステップとして以下2つを実施中です:

  1. ベトナム農業メディア
  2. 通訳アプリで食えるようになる

1に関しては、単純に情報を知っていれば回避できた問題や改善できた事(それこそ資材リストを作るとか)は色々あるなぁと思い、そういう損失をなくして行きたいというのと、農家さんへのインタビューや訪問なども考えているので、そこで横のつながりを作れれば面白い連携もできるんじゃないかなとも考えていたりします。

2に関しては、我々が1年間滞在してみて実際に感じた課題から作ってみたものです。自動翻訳なデバイスも結構出てきてるご時世ですが、今時点ではまだ人力に優位性があると思うので、時代に合わせつつハイブリッドな形を目指してみたいなと模索中です。また農業で使える仕組みにもできるかなと考えていたりします。

以上、引き続きがんばっていきます!

*1:いわゆるIKIGAI

*2:ハイテクの定義はグレー

*3:コマツナならネットで買っても150~200円/kg程度、市場はその半分くらい。トマトは安い時で市場で10円/kgとかです...。